ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
岩場のそばを泳ぐ実物のシーラカンス。白い模様と肉厚のひれが見える
2019年、南アフリカの海で撮影されたシーラカンス。標本や再現ではなく、生息中の実写真です。
記録番号IND–BIO–003
不思議な場所・現象FILE 046

シーラカンスCoelacanth

絶滅したと思われた魚が、
なぜ生きて見つかった?

昔の化石でしか知られていなかったシーラカンス。1938年、南アフリカの漁船が捕まえた一匹が、「もういない」という考えを変えました。魚が生き返ったのでしょうか。それとも、人がまだ見つけていなかったのでしょうか。

▰ カテゴリ不思議な場所・現象◎ 地域アフリカ東岸・インドネシア周辺◆ キーワードシーラカンス / 生きた化石 / 再発見▥ こわさこわさは低め

01|漁船から届いた驚き

「もういない」はずの魚が、
目の前にあった。

マージョリー・コートネイ=ラティマーと、1938年に見つかったシーラカンスの保存標本
魚に注目したラティマーと、1938年に見つかった個体の保存標本。当時の写真です。

シーラカンスは、肉厚のひれを持つ魚の仲間です。昔の生き物の体などが地層に残った化石かせきで知られ、恐竜がいた時代のあとに姿を消したと考えられていました。

ところが1938年、南アフリカの海で漁船の網に、見慣れない魚が入りました。博物館で働くマージョリー・コートネイ=ラティマーが注目し、魚の研究者J.L.B.スミスに絵と説明を送りました。

スミスは保存された魚を確かめ、1939年に新しい種として発表しました。手元にあったのは、昔の魚に似たうわさではなく、実物の標本ひょうほんです。

生きている仲間がいることは、確かめられました。では、どうして「いなくなった」と思われていたのでしょうか。

02|消えていたのは記録

化石の空白は、
魚がいない時間だった?

岩に残ったCaridosuctor populosumというシーラカンスの仲間の化石。頭・体・尾の形が見える
遠い昔仲間の姿が
化石に残る
記録の空白化石も生きた姿も、
約6600万年前のあと、
科学では確認できなかった
1938年生きた個体が
研究者に届く
上は約3億年前の仲間の化石で、1938年の魚と同じ種ではありません。下は記録の順序を示し、時間の長さは比例させていません。

化石は、過去の生き物がすべて並ぶ名簿ではありません。体が残り、地層になり、さらに人が見つける必要があります。生きていても、記録が見つからない期間はありえます。

シーラカンスは、いなくなってから復活したのではありません。生き残っていた仲間が、科学で確認できる形で見つかったのです。ただし、長い空白のあいだ、どこでどのように暮らし続けたのかが、すべて分かったわけではありません。

1952年には、コモロ諸島から別の個体が届きました。現地の漁師は、その魚を以前から知っていました。「科学の再発見」は、「だれも見たことがなかった」と同じ意味ではないのです。

03|海の中を調べる

捕まえた一匹から、
泳ぐ姿の観察へ。

無人潜水機がライトで深い海の岩場を照らして調べる概念再現
海の中で動く無人潜水機は、岩場の奥も調べられます。※AI生成によるイメージ。深海調査の役割を示す架空の場面で、実際の調査地点や装置を再現した写真ではありません。

その後、アフリカ周辺の海で生息中の姿が確認され、1997年と1998年にはインドネシアでも見つかりました。DNAを比べると違いがあり、インドネシアの魚は別の種として記載されました。現在知られている生きた種は2種です。

海にいる姿を撮影すると、ひれの使い方も確かめられます。足のように見えるひれでも、海底を歩いて暮らすわけではありません。体を支えたり、向きを変えたりしながら、水の中を泳ぎます。

東京大学などの共同研究では、無人潜水機でインドネシアの深い岩場を調べ、大人の魚に加えて幼魚も観察しました。洞窟の中だけでなく、岩陰や斜面でも見つかっています。

2025年には、北マルクの水深約140メートルでも撮影記録が報告されました。生きている証拠は積み重なっていますが、広い海のどこに、どれだけいるかは、まだ調べきれていません。

04|生きた化石の意味

昔の姿に似ていても、
進化が止まったわけではない。

共通の祖先から、別々の枝へ古い共通祖先からシーラカンスの枝が分かれ、別の枝から肺魚と陸上の脊椎動物が分かれます。現生のシーラカンスから人へ進む矢印はありません。シーラカンス肺魚(はいぎょ)陸上の脊椎動物人・鳥・カエルなど古い共通祖先

肺魚と、陸上に進出した仲間のほうが近い関係です。枝の長さは時間や進化の速さを表しません。

DNA研究にもとづいて、関係だけを単純化した図。途中で分かれた、たくさんの絶滅種は省略しています。

シーラカンスは「生きた化石」と呼ばれます。古い化石の仲間と似た特徴を、現在も持っているからです。今いる一匹が、何千万年も生きてきたという意味ではありません。

親から子へ、世代が続くあいだには変化も起きます。外から見える体の形が似ていることと、体の中やDNAまでまったく変わらないことは、別の話です。

また、現生のシーラカンスが、そのまま人間の祖先になったわけでもありません。2013年のDNA研究では、空気を吸える魚である肺魚のほうが、人や鳥などの脊椎動物せきついどうぶつに近い関係だと分かりました。脊椎動物は、背骨を持つ動物の仲間です。

似た姿を見つけるだけでなく、化石や体のつくり、DNAを比べる。そうして、長い歴史の枝分かれを確かめていきます。

05|今も続く発見

新しい手がかりは、
海にも、博物館にも。

研究者が石の標本をX線CT検査装置に置き、調べる準備をする概念再現
X線CTは、石の内側の形を調べる方法です。古い標本から、新しい情報を取り出せることがあります。※AI生成によるイメージ。人物・装置・標本は架空で、2026年の研究で使われた実物や作業を写したものではありません。

2026年には、博物館に長く保管されていた化石をX線CTなどで調べ直し、シーラカンスの仲間の新しい化石種が発表されました。見つかったのは、現在泳いでいる3番目の種ではなく、遠い過去に生きた魚です。

古い標本にも、まだ読み取れていない情報があるのです。その発見は歴史の一部を詳しくしましたが、1938年までの長い空白をすべて埋めたわけではありません。

分かっていること

シーラカンスの仲間は今も生きています。実物の標本と、海での撮影・観察が証拠です。

まだ分からないこと

記録の空白をつなぐ詳しい歴史と、未調査の海を含めた生息状況。幼魚の暮らしにも、まだ空白があります。

1938年の一匹が変えたのは、魚の生死ではなく、人の理解でした。海の中を探すことと、昔の資料を調べ直すこと。その両方から、この魚の物語は今も少しずつ見えてきています。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

博物館の解説、実際の観察記録、2026年までの研究を照合しました。生存の確認、昔の推定、残る空白を分けて記しています。

画像クレジット

Hero・ホームカード:Bruce A.S. Henderson撮影(2019)、Wikimedia Commons、CC BY 4.0。Commonsの明るさ調整済み版をWebPへ変換。

ラティマーと標本:撮影者不明、SAIAB由来、Wikimedia Commons、Public Domain。WebPへ変換。

化石:Daderot撮影、Houston Museum of Natural ScienceのCaridosuctor populosum展示、Wikimedia Commons、CC0 1.0。縮小・WebP変換。

深海調査・CT作業:本文資料をもとにしたAI生成の概念再現。実際の人物、装置、場所、標本を記録した画像ではありません。記録の時系列・枝分かれ図:本文資料をもとに作成。