01|石から生まれた像
この体を、どこから運んだ?
写真のモアイを、顔から足元へと見てみてください。長い鼻の下には口があり、その下に胴体が続きます。まっすぐ立つ姿は、石でできた人のようです。
ここは、太平洋に浮かぶチリの島、ラパ・ヌイ。イースター島とも呼ばれます。モアイは、この島の人々が作った石像です。昔の家族や一族の人々である祖先を、大切にするための像と考えられています。
多くのモアイが作られたのは、ラノ・ララクという場所でした。岩から石を切り出す「石切り場」です。ここには、岩に残った彫り跡や、作りかけの像があります。

ところが、完成した像の多くは、石切り場とは別の場所にある台座に立っています。どこかで岩から切り離し、重い体を運ぶ必要がありました。
車もクレーンもない時代に、どう動かしたのか。「地面に寝かせて引いたのでは」と考える人もいれば、「立てたまま運んだのでは」と考える人もいます。そこで研究者は、実際に像を動かしてみました。
02|立ったまま動く
足がなくても、ゆらせば進める。
カール・リポ、テリー・ハント、セルヒオ・ラプ・ハオアらは、本物の形をもとに、実験用の複製を作りました。重さは4.35トンです。人が抱えて持ち上げるような大きさではありません。
- 像の重さ
- 4.35トン
- 動かした人
- 18人
- 進んだ距離
- 100m
- かかった時間
- 40分
本物のモアイすべての重さや、昔の作業人数を表す数字ではありません。
使ったのは三本の縄。左右に延びる縄を交互に引き、後ろからも支えます。像は右へ、左へとゆれながら、少しずつ前へ進みました。
ゆらす。支える。少し進む。
左右の縄交互に引いて、像をゆらす。
後ろの縄前へ倒れすぎないように支える。
- 01片側の底で支える
- 02反対の底へ移る
- 03ゆらしながら進む
体を片側へ傾けると、底の片側で体を支えます。次に反対側へゆらすと、支える側も移ります。この動きを繰り返すと、像は立ったまま進めるのです。
「歩く」といっても、石が自分で動くわけではありません。人が縄を使い、像の形と重さをうまく働かせる運び方です。後ろの縄も、前へ倒れすぎないようにする大事な役目を持っています。
研究者の実験映像・写真を見る ↗大学の元ページが開きます03|道に残った手がかり
「できる」と、「昔もそうした」は違う。
実験で像が進んだ。これで、昔の運び方も決まったのでしょうか。まだ、もう一つ確かめることがあります。動かせる方法が見つかっても、それが昔に使われた方法とは限らないからです。
研究者は、島の道沿いに残った像も調べました。その中には、底が幅広く、少し前へ傾く形の像があります。こうした特徴は、立ててゆらす運び方と合っています。
さらに、像がどこに残り、どう壊れているかを見ます。途中で倒れ、運べなくなったと考えると説明しやすい跡があるのです。2025年の研究では、立体モデルや道の形も使い、この運び方と遺跡の特徴を照らし合わせました。
その方法で動かせる?
本物の形をもとにした複製で、動きや支え方を試す。
昔の跡と合っている?
像の形、道、壊れ方、残った場所を調べる。
この二つが合うほど、「昔もこう運んだのでは」という説明は有力になります。ただし、何百年も前の作業を、最初から最後まで見られるわけではありません。
別の研究者、ジョー・アン・ヴァン・ティルバーグらは、寝かせた複製像を木のそりで動かす実験にも成功しています。条件の違う実験を、人数の少なさだけで比べることはできません。大事なのは、どの方法が本物の像や道の特徴まで説明できるかです。
04|どこまで分かった?
像だけでなく、人の工夫が見えてくる。
モアイを立てたままゆらして運ぶ方法は、複製像で実現できました。本物の像の形や、道沿いの跡にも合うため、昔の運び方を説明する有力な考えです。
一方、一体ずつの像をどんな縄で、何人が、どのように最後まで運んだのか。その作業の細部は、すべて分かったわけではありません。
もうちょっと詳しく:海から運べば?
陸の上が大変なら、いかだに載せて運べないでしょうか。2026年の研究では、ヤシの丸太が水に浮く力と、重い像を支えられるかが検討されました。研究者は、調べたヤシ材の性質では、重い像をいかだで運ぶのは難しいと結論づけています。ただし、別の案が難しいことだけで、歩かせる方法が昔に使われた証明にはなりません。
次にモアイの写真を見るときは、顔だけでなく、足元の形にも目を向けてみてください。動かない石の体から、重さを使いこなした人々の工夫を考えることができます。
REFERENCE DESK
参考資料・関連リンク
この記録を支えた資料です。実験で確かめられたことと、遺跡から考えられることを分けて確認しています。資料の最終確認:2026年10月20日。
入口・書架の写真:Rivi「Ahu Tongariki.jpg」(2006年3月29日)。CC BY-SA 3.0。表示に合わせて縮小・トリミングしています。改変部分も同じライセンスです。
石切り場の写真:Aurbina「Moai Rano raraku.jpg」(2004年1月)。作者がPublic Domainとして公開。表示に合わせて縮小しています。写真は昔の運搬場面を記録したものではありません。
三本の縄と動きの図:本文資料をもとに作成。特定の像の寸法や、古代の作業風景を復元した実測図ではありません。
