ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
資料室の台に、人の姿が薄く残る長い布を広げた想像の場面
※AI生成によるイメージ。実物の写真ではありません。
記録番号ITA–HIS–002
歴史の謎FILE 054

トリノの聖骸布Shroud of Turin

人の姿が残る布は、
2000年前のもの?

イタリアのトリノには、男性の顔や体の形がうっすら残る、長い布があります。「トリノの聖骸布せいがいふ」と呼ばれ、亡くなったイエスの体を包んだ布だと信じる人がいます。イエスは約2000年前に生きた、キリスト教で大切にされている人物です。本当にその時代の布なのでしょうか。写真と科学の検査を手がかりに、布の不思議をたどります。

▰ カテゴリ歴史の謎◎ 地域イタリア・トリノ/フランス・リレイ◆ キーワードトリノの聖骸布 / 聖骸布 / Shroud of Turin / 放射性炭素年代測定 / セコンド・ピア▥ こわさこわさは低め

01|写真で見えた顔

写真にすると、
顔がはっきり見えた。

昔の暗室で、顔が写った写真用のガラス板を見る人物の想像図
1898年の撮影を想像したAI画像です。実際の写真家や撮影現場を再現したものではありません。

1898年、写真家セコンド・ピアがこの布を撮影しました。当時の写真には、画像を写し取るガラスの板が使われていました。その板では、布の明るいところが暗く、暗いところが明るく写ります。

すると、布の上ではぼんやりしていた顔や体が、写真のようにはっきり見えたのです。この驚きが、布を科学で調べるきっかけになりました。

でも、顔がよく見えるだけでは、いつの布なのかは分かりません。まずは、残された記録をたどってみましょう。

02|布の記録をたどる

確かな記録に現れるのは、
約700年前。

1350年代フランスで人々に公開
1898年写真で顔がはっきり
1988年布の古さを調べる
2026年残った布片を見直す
主な記録と検査の順序です。1350年代より前に、この布がどこにあったかは確かではありません。

この布が人々に公開された確かな記録は、1350年代のフランスにあります。今から約700年前のことです。その後、1578年にイタリアのトリノへ移されました。

「イエスの体を包んだ布」という言い伝えだけでは、約2000年前から同じ布が残っているかは確かめられません。古い記録に現れた年と、布ができた年も同じとは限りません。布そのものから、古さを調べられないでしょうか。

03|古さを調べる方法

小さな布片を、
3つの研究室へ。

この布は、亜麻あまという植物の茎から取った繊維でできています。植物には、炭素という物質が含まれます。その中には、時間がたつと少しずつ減っていく種類があります。

植物が枯れると、新しい炭素を取り込まなくなります。そこで、減っていく炭素がどれだけ残っているかを測れば、植物が生きていたのはいつごろかを調べられます。布の材料が育った時期を知る方法です。

人の姿が残る長い布
端から小さな布片を切り取る
アリゾナの研究室オックスフォードの研究室チューリヒの研究室

3つの研究室が、それぞれ古さを検査

検査の順序を示す図です。切り取った位置や大きさを正確に描いたものではありません。

1988年、布の端から小さな帯が切り取られ、3つに分けて別々の研究室へ渡されました。大切な布を大きく切らずに調べるためです。さて、検査はどんな年代を示したのでしょうか。

04|意外な検査結果

検査が示したのは、
約600〜800年前。

約2000年前イエスが生きた時代

約600〜800年前検査が示した布の年代

西暦1年ごろ1000年2026年

検査結果:1260〜1390年

茶色の帯が検査で示された年代です。人の姿がついた年を測った結果ではありません。

3つの研究室の結果を合わせると、布の年代は1260〜1390年と報告されました。今から約600〜800年前で、イエスが生きた時代より、ずっと後です。

この結果には、「後から直した部分を切り取ったのでは?」「汚れが検査に影響したのでは?」という疑問も出ました。もし別の時代の布や汚れを測っていたなら、元の布の古さとは違う結果になるかもしれません。そこで、残っていた布片も調べ直されました。

05|残った布片を見直す

調べたのは、
元の布の一部だった?

研究室で小さな布片を顕微鏡で調べる想像の場面
布片を顕微鏡けんびきょうで調べる場面のAI画像です。実際の研究者や装置の写真ではありません。

2026年、アリゾナの研究室に残っていた2つの布片が調べられました。使われている植物や糸の織り方は、聖骸布の本体と合っていました。調べた片では、別の布で直した跡や、検査結果を大きく変える汚れの証拠は見つかりませんでした。

これは、1988年の検査に使った布片を確かめる研究です。布の古さを新しく測ったわけでも、布全体を調べ尽くしたわけでもありません。約2000年前の布だと確認されたわけではないのです。

06|いま分かることと、残る謎

では、人の姿は
どうやって布についた?

不思議な布長い布に、男性の顔や体の形が薄く残っています。

古さを調べた結果検査では約600〜800年前の年代が示されました。約2000年前という結果ではありません。

まだ残る謎人の姿がどうやって、いつ布についたのか。古さを調べる検査だけでは答えが出ません。

今のところ、科学の検査は、イエスが生きた時代よりずっと後の布だという結果を示しています。ただし、それだけで「誰の姿か」「どうやってついたか」まで分かるわけではありません。

写真で顔が見え、布の古さも調べられました。それでも、薄く残る人の姿はどう生まれたのでしょう。古さとは別の謎が、この布には残っています。

もう少し詳しく:検査の数字と、その後の議論

古さを調べた方法は「放射性炭素ほうしゃせいたんそ年代測定」と呼ばれます。炭素14という種類の炭素の減り方を利用し、ごく少量の布でも測れる装置が使われました。

1260〜1390年は、一年に特定できたという意味ではありません。測定の誤差などを考慮して、可能性の高い年代を幅で示した結果です。1989年の論文は、この幅を95%の信頼範囲として報告しています。

元の測定データのばらつきを調べ直す研究もあります。しかし、それは布を2000年前のものと新しく測定した結果ではありません。2026年の研究で調べたのも、保管されていた小さな2片です。布全体について、あらゆる疑問がなくなったとまでは言えません。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

布についての公式解説、古さを調べた論文、その後の検討を参照しています。資料の確認:2026年10月12日。

画像クレジット

保存台の布、昔の暗室、研究室の3画像はAI生成によるイメージです。実物・実験・研究者の写真ではありません。

時系列・検査手順・年代比較は、参考資料をもとに作成した図です。論文の写真や図版は転載していません。