01|顔にないもの
大きな石像の顔を、
もう少し近くで。

この像は、地面にある大きな岩を彫ってつくられました。約4500年前のカフラー王の時代につくられたと考えられています。人の顔とライオンの体を組み合わせ、王の力を表した像です。
でも、その大きな顔には鼻がありません。もともと鼻があった姿を想像すると、今の顔との違いがよく分かります。

鼻が失われた瞬間の写真はありません。そこで手がかりになるのが、写真のなかった時代に描かれた絵です。
02|昔の絵を見る
ナポレオンより前に、
もう鼻がなかった。
「ナポレオンの軍隊が、大砲で鼻を壊した」という話を聞くことがあります。ナポレオンはフランスの軍人で、1798年に軍隊を連れてエジプトへ来ました。ところが、それより前の絵を見ると、この話は成り立ちません。

デンマークの旅行者ノルデンは、1737年にエジプトを訪れ、スフィンクスを描きました。その旅行記は1755年に出版されます。上の図には、すでに鼻がありません。

鼻がない姿は、ナポレオンが来る何十年も前に残されていました。少なくとも、彼の軍隊が初めて鼻を壊したという説明には合いません。では、もっと前に誰が壊したのでしょう。
03|誰が壊した?
人の名前は残っている。
でも、答えとは限らない。
昔の出来事を調べて書いた歴史家マクリーズィーは、14世紀のムハンマド・サーイム・アッダフルという人物が鼻を壊したという話を残しています。像に供え物をする人々に怒ったことが理由だった、と伝えています。
これは、人の手で壊されたという説明の手がかりです。ただし、古い記録に名前が出てくることと、その人物が壊したと確かめられることは別です。Smithsonianの解説も、この説明について議論があると紹介しています。
先ほどの絵は「そのころには鼻がなかった」と教えてくれます。でも、壊した人の名前までは教えてくれません。絵と文章には、それぞれ分かることと、分からないことがあります。
鼻をめぐる記録を読む(Smithsonian・英語) ↗04|残った手がかり
失われた鼻から、
残っている像へ。

研究者は像や周りの建物を測り、古い石と修復された部分を記録してきました。近年には、写真やレーザー測量などから立体的な記録もつくられています。
修復で見えなくなる部分もあるため、以前の写真や図が大切な手がかりになります。今の記録も、未来の人が像の変化を調べるときに役立ちます。ただ、現在の形を詳しく測るだけで、過去に鼻を壊した人が分かるわけではありません。
スフィンクスの調査と記録を見る(AERA・英語) ↗05|謎の現在地
「分からない」の中にも、
確かな手がかりがある。
鼻が失われた正確な時期や、壊した人物は、ここで確認した資料だけでは決められません。それでも、ナポレオンの遠征より前に鼻がなかったことは、古い絵から確かめられます。
もう一度スフィンクスの顔を見ると、欠けた鼻の向こうに、絵を描いた人や記録を残した人の存在が見えてきます。失われたものを調べるには、残っているものを丁寧に見る必要があるのです。
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