01|完成する前から斜め
鐘の塔に、
何が起きた?
写真の左は大聖堂、右はその鐘を鳴らす塔です。二つの建物はつながっていません。右の塔は「ピサの斜塔」と呼ばれています。斜塔とは、傾いた塔のことです。
建設が始まったのは1173年。ところが、まだ完成していないうちに塔は傾き始めました。長い中断を挟み、建物が完成したのは14世紀です。初めから斜めに立つよう設計したのではなく、つくっている途中で足元に問題が起きたのです。
石の塔に目が向きますが、傾きの理由を探すには、その下にある土を見なければなりません。
02|足元の土に注目
重い塔を支えるのは、
硬い岩ではなかった。
塔の下には、重みが加わると縮みやすい、柔らかい土があります。建物を支える土台を基礎といいます。塔の重みで土が沈み、基礎の左右で沈み方に差がついたため、塔が傾いたのです。
もうちょっと詳しく|長い工事中断と土の変化
工事の長い中断の間にも、塔の重さで土は少しずつ縮みました。工事を担当した技術者の解説では、その間に土の強さが増したことが、建設を続けられた理由として挙げられています。これは、中断が初めから地盤対策として計画されていた、という意味ではありません。上の階をつくる際には傾きを補う工夫もされ、塔の軸は完全な直線ではなく、少し曲がっています。
だからといって、斜めのまま放っておけたわけではありません。20世紀にも傾きは進み、1990年には安全を心配して、塔の中へ入る見学が止められました。調査と対策を考える委員会がつくられました。
低く沈んだ側を持ち上げればよさそうにも思えます。ただ、傾きが進んだ塔の下で、土を大きく動かすのは危険です。そこで調べられたのが、反対側をほんの少し沈める方法でした。
03|土を取って守る
高い側を、
少しだけ下げる。
塔が傾いているのは南側です。工事で土を取ったのは、反対に高くなっている北側の基礎の下でした。北側が少し沈めば、南へ傾いていた塔は少し戻ります。
土を取るのは、傾きと反対の側。
① 北側から土を取る
細い管を使い、基礎の北側から少しずつ土を取り出します。
② 北側が少し沈む
高い側が下がると、塔の傾きが少し戻ります。
もちろん、いきなり穴を掘ったわけではありません。模型や計算、実際の地面での試験を重ね、1999〜2001年に本物の塔の下から土を取り出しました。傾きや沈み方を測り、その結果を見ながら、次の作業を決めていきました。
工事を担当した技術者の解説を見る(Ingenia・英語) ↗さらに、地下の水の高さが変わることも塔の動きに関係していました。水が流れ出る道を整える対策も行われました。塔を守ったのは、土を取る工夫だけでなく、測定と調整を組み合わせた仕事でした。
04|斜めの姿を残す
まっすぐにしない、
という選択。
工事の目的は、塔を完全な垂直にすることではありませんでした。長い歴史のある建物の姿をできるだけ保ちながら、傾きを少し減らし、安全性を高めることを目指したのです。2001年には、再び見学できるようになりました。
ただし、これで永久に倒れないと分かったわけではありません。土や地下の水、建物の変化を測り、確かめていく必要があります。「斜めなのになぜ立っている?」という疑問には、塔の形だけでなく、足元の土と、塔を守る人たちの仕事も関わっています。
入口の写真をもう一度見てください。塔は今も斜めです。その姿は、工事をしていないから残ったのではありません。傾いた歴史を残しながら守る、という選択が見えてきます。
REFERENCE DESK
参考資料・関連リンク
入口・書架カード:Kallerna「Piazza del Duomo Pisa 7.jpg」(2024年10月29日)、元画像 ↗、CC BY-SA 4.0 ↗。塔と大聖堂を残して切り出し・縮小・WebP変換。改変した画像も同じライセンスです。
本文写真:John Samuel「Cathedral and Leaning Tower, Pisa 06.jpg」(2016年10月8日)、元画像 ↗、CC BY-SA 4.0。縮小・WebP変換、表示時に右へ90度回転。同じライセンス。写真の傾きや被写体の形は描き換えていません。地下の比較図は本文資料をもとに作成した説明図で、実測記録ではありません。

