MMYSTRAILふしぎアーカイブ
ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
イギリス南部の草原に立つ、現在のストーンヘンジを写した写真
現在のストーンヘンジ。写真:Bernard GagnonCC BY-SA 3.0(Web表示用に縮小)
記録番号GBR–ARC–003
考古学 × 地質学FILE 021

ストーンヘンジの祭壇石THE ALTAR STONE JOURNEY

6トンの石は、
700キロ先から
どう運ばれた?

約5000年前の人々が築いたストーンヘンジ。その中央部には「祭壇石」と呼ばれる大きな石が横たわっています。石の中の小さな鉱物を調べると、遠い北東スコットランドから来た可能性が高いと分かりました。エンジンも文字の記録もない時代に、石はどんな旅をしたのでしょう。

EVIDENCE 01 · THE STONE

「祭壇石」は、
祭壇だったとは限りません。

ストーンヘンジは、イギリス南部で長い年月をかけて造り変えられた石の遺跡です。その中央近くに、長さ約4.9メートル、重さ約6トンの砂岩が横たわっています。砂岩とは、砂の粒が長い時間をかけて固まった岩です。

この石は「祭壇石」と呼ばれていますが、これは後の時代につけられた名前です。昔の人が本当に祭壇として使ったのか、初めから横向きだったのかは確認されていません。現在は、倒れた別の大石の下に一部が埋まっています。

石の旅を地図で見る英国を、北から南へ。

二つの場所は、英国を大きく縦断するほど離れています。

英国全体の海岸線と、北東スコットランドからストーンヘンジまでを結ぶ点線
産地が合う地域北東スコットランド
祭壇石がある場所ストーンヘンジ
直線でも
700 km超
点線は二地点の離れ方を示したものです。実際に石を運んだ道筋は分かっていません。

EVIDENCE 02 · MINERAL CLOCKS

手がかりは、石の中の
砂粒より小さな「時計」でした。

砂岩には、もとの山や岩から流れてきた小さな鉱物が混ざっています。2024年の研究チームは、祭壇石の微小なかけらに含まれるジルコン、アパタイト、ルチルという三種類の鉱物を調べました。

鉱物の中には、時間とともに決まった速さで変化する元素があります。その割合を測ると、鉱物ができた年代を推定できます。一粒の年代だけではなく、古い粒と新しい粒がどんな組み合わせで入っているかを見ると、岩石が生まれた地域の「年齢指紋」になります。

石の中に残った、三つの手がかり一粒ではなく、組み合わせを見る。
  • ジルコン
  • アパタイト
  • ルチル
それぞれのできた年代化学的な特徴

三種類の組み合わせが
よく似た地域を探す

これは調べ方を示す説明図です。棒の高さなどを実際の測定値として描いたグラフではありません。

EVIDENCE 03 · NARROWING THE SOURCE

「スコットランド」と分かっても、
出発地点はまだ一点ではありません。

祭壇石の年齢指紋は、以前の有力候補だったウェールズ周辺とは合いませんでした。もっともよく合ったのは、イギリス北東部に広がるオルカディアン盆地の古い赤色砂岩です。ストーンヘンジまでは、直線でも700キロを超えます。

ただし、オルカディアン盆地は広い地域です。別の研究は、オークニー本島で集めた岩石と二つの石造遺跡の石を比較しましたが、祭壇石とは一致しませんでした。これは「北東スコットランド由来」という大きな範囲を否定する結果ではなく、その中の候補を一つ減らした結果です。

以前の候補ウェールズ周辺合わない
地域の一致北東スコットランド
オルカディアン盆地
かなり確か
調べた候補オークニー本島の試料合わない
現在の空白正確な採石場所まだ不明
地域を特定することと、石を切り出した一点を特定することは同じではありません。

EVIDENCE 04 · TESTING THE ICE

巨大な氷が、自然に石を
運んだ可能性はあるでしょうか。

昔のイギリスは、大きな氷のかたまりである氷床におおわれた時期がありました。氷はゆっくり動き、岩を遠くまで運ぶことがあります。もし氷河が北から石を運び、ストーンヘンジ近くへ置いていったなら、人が動かした距離は短くなります。

2026年の研究は、昔の氷がどの方向へ流れたかを計算する氷床モデルと、ストーンヘンジ周辺の川の砂にある鉱物の指紋を組み合わせました。結果は、北東スコットランドから氷河が祭壇石をサリズベリー平原まで直接運んだ、という見方とは合いませんでした。

可能性が低下

氷河だけで到着

氷の流れと周辺の鉱物に、北東スコットランドから直接届いた証拠が見つからない。

有力

人が大きく運んだ

出発地域と到着地の間で、人による相当な距離の移動が必要だった可能性が高い。

モデルは「この道を通った」と写した記録ではありません。氷河だけで運ばれた可能性を低くし、人が運んだという見方を有力にしますが、旅の正確な道筋までは示しません。

THE HUMAN JOURNEY

人が運んだとしても、
旅の方法は一つに決まりません。

木ぞりに載せる、丸太や木の道を使う、綱で引く、川や海で船に載せる。どれも大きな石を動かす方法として考えられます。けれど、祭壇石に結びつく運搬具や旅の日記は残っていません。

大きな砂岩を木ぞりに載せ、大勢が綱で引く輸送仮説の写実的な再現イメージ
考えられる方法の一例: 木ぞりと綱を使う輸送仮説の再現。祭壇石が実際にこの方法で運ばれた証拠はありません。 ※AI生成によるイメージ
研究から考えられること人が長い距離を移動させた
でも
まだ分からないこと陸・川・海の割合
道具・人数・期間

一つの集団が最初から最後まで運んだとも限りません。地域から地域へ受け渡した可能性もあります。ここで大切なのは、「人が大きく動かした可能性が高い」という結論と、「船で運んだ」「丸太を使った」といった具体案の確実さを分けることです。

MEANING · NOT YET PROVEN

なぜ、近くの石ではなく、
遠い石を選んだのでしょう。

700キロを超える石の旅には、多くの人、時間、食料、知識が必要だったはずです。そのため研究者は、遠い地域とのつながりや、石が人々にとって特別な意味を持っていた可能性を考えています。

しかし、祭壇石を選んだ理由を書いた記録はありません。「国を一つにするため」「聖なる贈り物だった」といった考えは、遺跡を理解するための解釈です。面白い仮説であっても、石の産地と同じ強さで確かめられた事実ではありません。

今わかっていること

石の出発地域は見えてきました。
旅の道筋は、まだ見えていません。

確認できること

約6トンの砂岩

祭壇石はストーンヘンジ中央部にあり、現在は一部が別の倒石の下にあります。

かなり確かなこと

北東スコットランド由来

複数の鉱物の年代と化学が、オルカディアン盆地の地質と最もよく合います。

研究から考えられること

人が大きく運んだ

氷床モデルと堆積物の指紋は、氷河が直接運んだという見方とは合いません。

まだ分からないこと

採石地・道・目的

どこで切り出し、どの道具と経路で運び、なぜ選んだのかは未解明です。

いまの答え

6トンの石は、700キロ先からどう運ばれた?

人が長い距離を運んだ可能性は高い。
けれど、その旅を再現できる証拠はまだありません。

石の中の鉱物は、祭壇石が北東スコットランドから来たことを強く示しています。氷の流れを再現した研究からは、自然の力だけでストーンヘンジまで届いたとは考えにくく、人が相当な距離を動かした可能性が高まりました。一方で、陸を引いたのか、水に浮かべたのか、何年かけたのかは分かりません。科学は旅の両端を結びましたが、その間の道は、まだ空白のままです。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

祭壇石の産地、候補地域の比較、氷河と人による運搬を検討した査読研究と、公的な遺跡情報を紹介します。研究図版は転載せず、原資料へのリンクを掲載しています。

画像クレジット

Hero写真:Bernard Gagnon「Stonehenge 02.jpg」、CC BY-SA 3.0。Web表示用に縮小しています。出典とライセンスは画像下のリンクから確認できます。

英国地図:GSHHGの海岸線データ(LGPL)と本文資料の位置情報をもとに作成。点線は運搬経路ではありません。鉱物・産地候補・輸送判定・今わかっていることの図は、本文資料をもとに作成した説明図です。

輸送場面:木ぞりと綱を使う一つの仮説を可視化した再現イメージです。※AI生成によるイメージ。写真資料や考古学的証拠としては使用していません。