01|霧の湖へ
湖で、何かが見えた。
ネス湖はスコットランド北部にある、長く細い湖です。海のように塩分の多い水ではなく、川や雨から集まった淡水をたたえています。深いところは、水面から湖底まで約230メートルあります。

湖の水は暗く、水中を遠くまで見通せません。遠くの波や影を一瞬見ただけでは、大きさや形を確かめるのも難しい場所です。
見たという話はあるけれど、正体が確認されていない生き物を「未確認生物」と呼びます。では、姿が写真に写っていたら、正体は分かるのでしょうか。
02|一枚の写真
長い首に、見えるけれど。
1934年、水面から細い首のようなものが出た写真が新聞に載りました。撮影者として名前が出たのが手術をする医師だったため、「外科医の写真」と呼ばれています。

長いあいだ、写真はネッシーの姿を想像するもとになりました。ところが1994年、関係者の証言をもとに、小さな潜水艇に首の模型を付けて撮ったという説明が広まりました。模型は、ものの形を小さく作ったものです。

ここで分かるのは、この写真を信頼できる証拠にはできないということ。ほかの目撃まで、全部同じ仕掛けだったと分かったわけではありません。水面の写真だけでなく、水中を調べる方法も見てみましょう。
03|湖を音で探す
見えない水中へ、
音を送る。
暗い水中を探すために使われたのが「ソナー」です。音を送り、ものに当たって戻ってくる音を調べます。戻るまでの時間から、ものまでの距離を考えられます。

あとから同じ場所を調べると、動かないものから返っていた反応が多くありました。一方、再び探したときには消えていた反応も三つあり、何だったのかは特定できませんでした。
では、人々が思い描いた長い首の生き物は、何だったのでしょう。その姿によく似た、昔の動物が候補に挙げられてきました。
04|首長竜なのか
昔の動物が、
生き残っている?
長い首のイメージから人気になったのが、「首長竜の生き残り」という説です。首長竜は、恐竜と同じ時代に生きた爬虫類の仲間。恐竜とは別のグループで、四つのひれを使って泳ぎました。

化石からは、首長竜は約6600万年前に絶滅したと考えられています。一方、2022年にはモロッコの古い川で見つかった化石から、淡水にも暮らした種類がいた可能性が示されました。
ただし、昔の川に暮らせたことは、今のネス湖で生き残っている証拠ではありません。生きた個体は確認されていないのです。姿が見つからなくても、湖の水に生き物の痕跡は残らないでしょうか。
05|水からDNAを探す
姿が見えなくても、
水に手がかりが残る。
生き物は、皮ふのかけらや粘液、ふんなどを水中に残します。それらに含まれるDNAは、生き物の体にある情報です。種類ごとに異なる情報を調べることで、何がいたかを考える手がかりになります。

水から、生き物の手がかりを調べる
- 1生き物が
痕跡を残す - 2湖の各所で
水を採る - 3水にある
DNAを集める - 4知られている生き物の
DNAと比べる
この調査では、首長竜説を支える手がかりは得られず、ナマズ、チョウザメ、サメのDNAも見つかりませんでした。一方、ウナギのDNAは、ほぼすべての採水地点で見つかりました。
たくさん見つかったウナギのDNA。では、それは巨大なウナギの証拠なのでしょうか。
06|ウナギの大きさ
ウナギはいる。
でも、大きさは?

DNAで分かったのは、ウナギの手がかりが広くあること。ウナギ一匹の体長は、この調査では分かりません。研究者も、巨大なウナギを発見したとは発表していません。
そこで別の手がかりになるのが、捕まえたウナギの記録です。2023年の研究は、過去のデータから大きさを推定し、6メートルものウナギはとても考えにくいとしました。
この研究も、湖のウナギを全部捕まえたわけではありません。「ウナギのDNAがある」と分かっても、体の大きさは別の手がかりで確かめる必要があるのです。写真、音、水の情報。それぞれの手がかりを合わせると、いま何を答えられるでしょう。
CURRENT STATUS|いま分かっていること
巨大な生き物は、
まだ確認されていない。
いまのところ、ネス湖でネッシーと呼ばれる巨大な未知の生き物が暮らしているという、確かな証拠はありません。有名写真も、ソナーの反応も、ウナギのDNAも、その存在を確認したものではありません。
一方、すべての目撃の正体が分かったわけでもありません。船が残した波、鳥や魚、流木など、別々のものを見た可能性があります。何十年もの目撃を、全部一つの原因で説明する必要はないのです。

REFERENCE DESK
参考資料・関連リンク
写真の経緯、調査者の記録、大学・博物館の解説と論文を参考にしています。調査で分かったことと、まだ確かめられていないことを分けて読める資料です。
1934年「外科医の写真」:新聞掲載写真のスキャン。Wikimedia Commonsの記載作者はM. A. Wetherell。Public Domain(著作権による利用制限のない資料)。出典と利用条件 ↗。全体を縮小し、WebP形式へ変換しています。被写体の補完・内容の変更はしていません。
AI生成画像8点は、いずれも説明のためのイメージで、実写・実資料ではありません。Evidenceとの境界は本文と各Captionで示しています。
環境DNAの手順図:オタゴ大学の説明をもとに作成。DNAで種類の手がかりを調べる方法を示し、個体の大きさを測る図ではありません。
