MMYSTRAILふしぎアーカイブ
ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
霧のネス湖を調査船から見つめる調査員と水面の影
記録番号GBR–UMA–001
未確認生物FILE 003

ネッシーは
本当にいるのか?

目撃、写真、ソナー、そして湖水のDNA。世界でもっとも有名な未確認生物を、現代の科学で捜査する。

※イラストは調査内容をもとにしたイメージです。
30

30秒でわかるお話

スコットランドのネス湖では、巨大な生き物を見たという話があり、1930年代から「ネッシー」として世界に広まりました。有名な写真、ソナー、そして約250の水試料を使う環境かんきょうDNA調査まで行われました。現在まで巨大な未知生物を示す決定的な科学的証拠しょうこはありません。ただし、すべての目撃もくげきの正体が一つに決まったわけでもありません。

FIELD 01|SCOTLAND

霧の湖で、何かが見えた。

ネス湖はスコットランド北部、ハイランド地方の長く細い淡水湖です。水量は約74.52億立方メートル。スコットランドで最も水量が多く、イングランドとウェールズの湖を合わせた以上の水をたたえています。最大水深は約230メートルです。

SCOTLANDネス湖北部ハイランド地方
水量
約74.52億m³
最大水深
約230m
特徴
深く、長く、暗い水

泥炭を通った水は暗く、水中の見通しはよくありません。風、波、霧、遠近感が重なる湖で、一瞬の影を見分けるのは簡単ではないのです。

目撃情報はあるものの正体が確認されていない生物を、日本ではUMA(未確認生物みかくにんせいぶつ)と呼ぶことがあります。ネッシーはその代表として知られています。

1930年代のネス湖畔で水面を見つめる人々と取材する記者
道路整備で湖を見る人が増え、1933年ごろから新聞報道が相次ぎました。近代的なネッシーブームの始まりです。

EVIDENCE 02|1934

世界を驚かせた、一枚の写真。

1934年、細い首のようなものが水面から出た写真が新聞に載りました。撮影者が医師だったため、後に「外科医の写真」と呼ばれ、長いあいだネッシー像の中心になりました。

小型模型と撮影の仕組みを示す文字のない解説イラスト
有名写真そのものの転載ではなく、偽造に使われたとされる小型模型と撮影の仕組みを表した図です。

しかし1994年、関係者の証言から、これは小さな潜水艇に首の模型をつけて撮影した偽造ぎぞうだったことが明らかになりました。ここで分かったのは、この写真が信頼できる証拠ではないということです。ほかのすべての目撃まで同じ仕掛けだったと証明したわけではありません。

EVIDENCE 01多数・検証困難

目撃証言

体験を知る大切な記録。ただし距離や大きさを後から客観的に確かめにくい。

EVIDENCE 02偽造と判明

1934年の有名写真

模型を使った写真だった。ネッシー全体ではなく、この証拠の信頼性が失われた。

EVIDENCE 03|SOUND

写真がだめなら、湖そのものを探そう。

暗い水の中を目で見る代わりに使われたのが音波おんぱです。ソナーは音を送り、その反射が戻る時間や強さから水中の物体を探します。

調査船
反射を受信
湖底
1987年のネス湖で横一列に進みソナー調査をする船団
1987年のOperation Deepscanでは、多数の船を横に並べて湖を横断しました。

調査ではいくつか興味深い反応が記録されましたが、何が反射したのかを特定できませんでした。説明できない反応巨大生物の確認は同じではありません。

EVIDENCE 03未同定

ソナー反応

湖に何かがあった可能性は示すが、その大きさや種類を巨大な未知生物と確認できていない。

HYPOTHESIS|BIOLOGY

ネッシーは、首長竜くびながりゅうなのか?

長い首のイメージから、ネッシーは首長竜の生き残りだという説が人気になりました。首長竜は恐竜そのものではなく、恐竜時代の海に暮らした爬虫類はちゅうるいのグループです。そして、化石記録では約6600万年前に絶滅しています。

海に暮らした首長竜と現代のネッシー像を分けて比較した自然史イラスト
左は化石から考えた首長竜、右は伝説で描かれるネッシー像。似て見えても同じ生物だという証拠はありません。

海の動物が淡水湖で長期間生き残るには、繁殖できる集団と大量の食物が必要です。ネス湖は氷河時代の後に現在の形になったため、首長竜生存説には大きな科学的な難しさがあります。

EVIDENCE 04|eDNA

湖の水から、生き物を探す。

生き物は皮膚のかけら、粘液、ふんなどを水中に残します。そこに含まれるDNAを集め、どんな生物がいたかを調べる方法が環境かんきょうDNA(eDNA)です。

ネス湖で手袋と採水ボトルを使い環境DNA用の湖水を採取する研究者
2018年、オタゴ大学を中心とするチームはネス湖の各所から約250の水試料を採取し、2019年に結果を公表しました。
1生物の痕跡が水へ
2各地点で採水
3DNAを抽出
4データベースと比較

調査では、首長竜型の巨大爬虫類、大型ナマズ、チョウザメ、サメを支持するDNAは見つかりませんでした。一方、ウナギのDNAはほぼすべての採取地点で確認されました。

普通のヨーロッパウナギと遠くの大きさ不明の影を分けて描いた仮説イラスト
ウナギは実際にネス湖にいます。ただし、遠くの影は「もし大きかったら」という仮説の表現です。

見つかったのは……巨大ウナギ?

eDNAから分かるのは「ウナギのDNAがある」こと。個体の大きさは分かりません。非常に巨大なウナギが確認されたわけではなく、正確には巨大ウナギ説をこの調査だけでは否定できなかったという現在地です。

EVIDENCE 04巨大生物の証拠なし

環境DNA

巨大な未知生物を支持するDNAは確認されず、ウナギDNAは広く見つかった。ただしDNAから大きさは分からない。

WITNESS FILE|一つの答えとは限らない

では、目撃した人たちは何を見た?

湖面の波、船の航跡、鳥や魚、流木、ふだんより大きな生物。霧や暗い水で距離感を誤った可能性もあります。偽造もあれば、正直に「何か」を見て正体が分からなかった人もいたでしょう。

船の航跡鳥・魚流木距離感の誤認未同定の対象

何十年分もの目撃を、たった一種類の原因で説明する必要はありません。証言ごとに別の出来事だったと考えるほうが自然です。

CURRENT STATUS|科学はどこまで追いつめた?

怪物の謎から、「見ること」の謎へ。

現在まで、ネス湖に巨大な未知生物が暮らしていることを示す決定的な科学的証拠は確認されていません。とくに首長竜の生き残り説を支持する証拠は非常に乏しく、写真やソナー、eDNAを調べるほど候補はしぼられてきました。

それでも、すべての目撃の正体が完全に判明したわけではありません。ネッシーという一頭の怪物を探す問いは、暗い湖で人は何を見て、話はどう広まり、科学は見えないものをどう確かめるのかという、もう一段深い謎へ変わります。

調査を終えた静かな夕暮れのネス湖と水面の波紋
調査が終わっても、湖は静かに残ります。次の証拠が現れたとき、この記録も更新されます。
FILE 003|調査メモ

「分からない」をそのままにせず、確かめられる方法を増やす。ネッシーの物語は、科学が謎と向き合う方法まで見せてくれました。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

大学、公的自然機関、博物館、継続調査プロジェクトの公開資料を中心に確認しました。