ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
多数の白い幹と、地下へ広がる根を同時に見せる概念イメージ
※AI生成によるイメージ。地上と地下を合わせた想像図です。根は実測された配置ではありません。
記録番号USA–BIO–002
不思議な場所・現象FILE 023

パンドPANDO · UTAH

森が、一つの生き物?

白い幹の木が、何本も立っている森。ところが、その広いまとまりは「パンド」という一つの生き物だと考えられています。幹を数えるだけでは分からない境界を、研究者は根から増える性質とDNAから確かめました。

▰ カテゴリ不思議な場所・現象◎ 地域アメリカ・ユタ州◆ キーワードパンド / アメリカヤマナラシ / クローン▥ こわさこわさは低め

地上から見ると

「一本」は、どこまで?

場所は、アメリカのユタ州にあるフィッシュレイク国有林です。ここにはアメリカヤマナラシという木の幹が、約43ヘクタールにわたって広がっています。100メートル四方の土地なら、約43枚分の面積です。

低い植物や草の間に、白い幹と緑の葉が広がる実際のパンド
実際のパンド。2025年7月3日撮影。地上では、離れて立つ多くの幹が見えます。この写真だけでは、地下のつながりやDNAは分かりません。写真:Mx. Granger/CC0。縮小・WebP変換。

このまとまりは、ラテン語で「私は広がる」という意味をもつ「パンド」と呼ばれています。見た目は何本もの木。それを一つの生き物と考えるには、どんな手がかりが必要なのでしょう。

木の増え方

根から、新しい幹が育つ。

多くの植物は、種から芽を出して新しい個体になります。アメリカヤマナラシは、それに加えて、地面の下へ伸びた根から新しい芽を出せます。その芽が育つと、地上では別の木のような幹になります。

同じ一つのもとから増え、基本となる遺伝情報を受け継いだまとまりを「クローン」といいます。幹が何本もあるからといって、別々の種から育ったとは限らないのです。

幹の数と、個体の数は別地上の幹が入れ替わっても、根から続く
育った幹新しい芽枯れた幹

地下の根から、新しい幹が育ちます

増え方を示す簡略図です。実際の位置や根の形、すべての幹がいつも直接つながっている状態を描いたものではありません。幹一本の寿命と、クローン全体が続く時間は別です。

ただし、根から増える性質があるだけでは、この広い森が全部一つなのかは決まりません。そこで、離れた幹のDNAを比べます。

見た目の境界を確かめる

離れた幹でも、同じDNAの型。

DNAは、生き物の体の作り方が記録された情報です。同じ種類の木でも、種から育った別の個体どうしでは、DNAの目印に違いが見つかります。

2008年の研究では、パンドとその周辺にある209本の幹から試料を集め、7か所のDNAの目印を比べました。パンドの内側では同じ型が広く続き、その周囲では違う型が見つかりました。姿や生え方から考えられていた一つのクローンの広がりを、遺伝情報でも確かめたのです。

DNAの目印を比べる考え方同じ型が続く範囲を探す
A同じ型● ◆ ▲ ●
B同じ型● ◆ ▲ ●
C同じ型● ◆ ▲ ●
D外側の別の木◆ ● ● ▲

A・B・Cのように同じ型がまとまって続くことが、一つのクローンだという判断を支えます。

調査方法を簡略化した説明図です。記号は実際のDNA配列ではなく、A〜Dも実際の採取地点ではありません。DNA全体が一字一句同じだと示す図ではありません。

大きさと古さ

幹の年輪では分からない年齢。

パンドは、約4万7000本の幹をもち、重さは約6000トンだと紹介されることがあります。ただし、どちらも調査から得た推定で、現在のすべての幹を数え直した確定値ではありません。「一個体」をどう比べるかによって世界での順位も変わるため、ここでは世界最大級の生き物と呼びます。

年齢も同じです。幹の年輪を数えて分かるのは、その幹の年齢です。古い幹が枯れ、新しい幹へ入れ替わるパンド全体の誕生年は、年輪から直接は分かりません。有名な「8万歳」も、確定した年齢ではありません。

もうちょっと詳しく:DNAで年齢も分かる?

同じクローンでも、育つ間にDNAに小さな変化が生じます。2026年3月に公開された研究では、パンドと周囲の木から集めた500点以上の試料を使い、変化の蓄積から年齢を推定しました。

ただし、研究には専門家の公開評価が付いており、年齢などの結論を支える証拠は不十分と評価されています。細かな変化をどこまで正しく読み取れたか、年齢へどう換算するかに課題があるため、新しい推定値をそのまま「本当の年齢」とはできません。

この先も続くには

次の幹は、育っていますか。

一つのクローンだと分かっても、それだけで将来が保証されるわけではありません。根から出た芽が育たなければ、古い幹のあとを引き継げないからです。

2018年の研究では、シカなどによる食害と若い幹の少なさが報告され、保護柵のある場所でも、動物が入り込めるかどうかで結果が違いました。「柵さえあれば大丈夫」でも、「すぐに全部枯れる」でもありません。

いま分かっていること

一本の幹より、大きなまとまり。

確認できたこと

一つのクローン

広い範囲の幹で、調べたDNAの目印の型が一致します。

推定を含む

大きさの数字

幹の総数や重さは、調査にもとづく推定値です。

まだ分からない

正確な年齢と地下の全体像

全体の誕生年や、根がどの位置でどうつながるかは、すべて分かったわけではありません。

足もとの小さな芽も、同じ大きな命。

パンドでは、高くそびえる幹だけが主役ではありません。根から出た小さな芽も、広いまとまりを続かせる一部です。森を見上げたあとに足もとへ目を向けると、「一本の木」の境界が少し違って見えてきます。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

根拠の確認日:2026年10月19日。2008年のクローン確認、2018年の保全研究、2026年の研究と現地報告を区別して紹介します。

画像クレジット

入口画像:AI生成による概念イメージ。地下の根は実測された配置ではありません。

本文実写真:Mx. Granger、Pando 3.jpg、2025年7月3日撮影。CC0、縮小・WebP変換。原典と利用条件は写真直下。

根と幹の図・DNA比較図:上記資料にもとづく説明図。実際の地下地図、採取地点、DNA配列を示すものではありません。