ヴォイニッチ手稿 THE VOYNICH MANUSCRIPT
600年前の本なのに、なぜ今も読めない?

文字が並び、植物や星の絵もあります。けれど、だれが何を書いた本なのか、今も確かめられていません。まずは本物のページを、よく見てみましょう。
ページを調べる ↓LOOK AT THE EVIDENCE
読めない。でも、何も分からないわけではない。
では、ページから何が分かるでしょうか。まず文字を見ると、左から右へ何行も続き、ところどころにすき間があります。単語らしきまとまりが並んでいるように見えます。
今度は絵を見てみましょう。植物、星のような円、管につながった人の姿があります。話題を想像する手がかりにはなるものの、植物の多くは実在する種類とぴたりとは一致しません。そのため、絵だけで文章を翻訳することはできません。
ここまで見てきた本は、アメリカのイェール大学バイネキ図書館が所蔵する「MS 408」です。古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチの名から、一般にはヴォイニッチ手稿と呼ばれています。

WHAT SCIENCE CAN DATE
測れたのは「紙の年代」。作者の名ではない。
次に、本そのものを調べてみましょう。紙のように見えるページは、動物の皮を加工した羊皮紙です。放射性炭素年代測定では、その材料が1404〜1438年ごろのものと推定されました。
これで「近代に作られた偽物」という考えは弱くなりました。では、書いた人まで分かるのでしょうか。測定が教えるのは、動物が生きていた時期に近い年代までです。だれが、いつ文字を書いたかを知るには、別の手がかりが必要になります。
SIX KINDS OF PAGES
絵を分けると、本の「章」らしきものが見える。
研究者は挿絵をもとに、ページをおおよそ六つのまとまりに分けています。ただし、これは内容を読めたという意味ではありません。
IS IT A LANGUAGE?
規則がある。だからといって、意味があるとは限らない。

もう一つの手がかりは、文字の並び方です。数えてみると、よく出る「単語」や、決まった位置に現れやすい記号があります。2013年の統計研究も、単純なでたらめより自然言語の文章に似た複雑さがあると報告しています。
これは大切な手がかりです。でも「何語で、何と書いてあるか」が分かったわけではありません。暗号、未知の表記法、人が作った言語、規則的に作られた意味のない文——候補はまだ一つに絞れていません。
「読めた」と言うまでの3段階
- 1記号を写すかなり進んでいる
- 2並びの規則を探す手がかりがある
- 3別の人も確かめられる意味にするまだ到達していない
“SOLVED” IS NOT ENOUGH
「解読した」という発表は、なぜ決着にならない?
これまで何度も、「ラテン語だ」「医学書だ」「暗号を解いた」と発表されてきました。けれど、短い部分だけに合う読み方では十分ではありません。
本当に解読できたなら、同じルールで別のページも読めて、別の研究者も同じ結果を確かめられるはずです。そこまで通った方法は、まだありません。
2025年には、当時の道具でも使えそうな暗号が、手稿によく似た統計パターンを作れるという研究が出ました。これは暗号だった可能性を考える新しい材料であって、本文を解いた研究ではありません。
CURRENT STATUS
本は本物。読み方は、まだ確定していない。
15世紀はじめの材料
手稿は実在し、羊皮紙の年代とページの特徴を調べられます。
規則ある文章か暗号
文字列には構造があります。ただし、それだけでは意味の存在を証明できません。
作者・言語・目的
だれが何のために書き、どう読んだのかは確定していません。
ここまでで、15世紀はじめの材料が使われ、文字列に規則があることまでは分かりました。ところが、作者・言語・目的を一つの読み方で結べる方法はまだありません。次に必要なのは大胆な答えではなく、だれが試しても同じ結果になる読み方です。
TOPICS
REFERENCE DESK
参考資料・関連リンク
史実と研究状況の確認に用いた、所蔵館の解説と査読研究等の資料です。
Yale University Library, Beinecke Rare Book and Manuscript Library, MS 408(Public Domain)。記事内では内容を描き足さず、見やすい範囲の切り出しのみ行っています。