ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
ヴォイニッチ手稿の実物見開き。緑や青の植物、容器、正体不明の文字が並ぶ
実物のページ|イェール大学所蔵・Public Domain
記録番号EUR–ARC–003
歴史の謎FILE 010

ヴォイニッチ手稿The Voynich Manuscript

600年前の
本なのに、
なぜ今も読めない?

古い本を開くと、植物の絵と、見たことのない文字が並んでいます。けれど、何と書いてあるのかは、今も確かめられていません。絵は答えの手がかりになるでしょうか。本物のページを見ながら、読めない理由を探します。

▰ カテゴリ歴史の謎◎ 地域—◆ キーワードヴォイニッチ手稿 / 未解読文書 / 写本▥ こわさこわさは低め

01|絵から読める?

植物の絵が、
文字の意味を教えてくれる?

実物のページから切り出した植物の絵と、そのそばに書かれた文字
植物と文字を見比べてみましょう。どの言葉が植物の名前なのかは、まだ分かりません。

葉や根のそばに文字があります。植物の名前や使い方を書いた本なら、絵を見て言葉を探せそうです。ところが、描かれた植物の多くは、どの種類なのかがはっきりしません。絵は見えても、文章の意味は決まらないのです。

この本は「ヴォイニッチ手稿しゅこう」と呼ばれています。手稿しゅこうとは、手で書かれた文書のこと。1912年に本を手に入れた古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチの名前が付いています。現在は、アメリカのイェール大学バイネキ図書館が所蔵しています。

所蔵館の解説と、ほかのページへの案内を見る(英語) ↗

ほかのページには星のような図や、人と水、容器のような絵もあります。挿絵によって大まかなまとまりに分けられますが、それは文章を読めたという意味ではありません。

絵からは答えが決まりませんでした。それなら、本の材料を調べると、いつ作られたのか分かるでしょうか。

02|いつの本?

約600年前の材料だと、
科学で分かった。

紙に見えるページは、動物の皮を加工した羊皮紙ようひしです。材料に残る炭素を調べて年代を推定する「放射性炭素年代測定ほうしゃせいたんそねんだいそくてい」によって、1404〜1438年ごろの材料だと分かりました。

年代を測ったのは、ページの材料

羊皮紙ようひし動物の皮から作る
材料に残る炭素を調べる1404〜1438年ごろ動物が生きていた時期の手がかり
文字を書いた日や、書いた人の名前を測った結果ではありません。

今から約600年前、15世紀はじめの材料です。これは最近の材料で作られた本ではないことを示す手がかりになります。ただし、材料の年代だけで、いつ、だれが文字を書いたかまでは決まりません。

古い材料を使っていることは分かりました。次は、そこに並ぶ文字そのものを調べてみます。

03|文字の並びを調べる

読めなくても、
繰り返す形は見つかる。

実物の文字列の拡大。同じ形の記号や、すき間で区切られたまとまりが繰り返し現れる
同じ形の記号が何度も現れます。すき間で区切られた部分は、単語のようにも見えます。

左から右へ行が続き、文字のあいだにすき間があります。よく出るまとまりや、決まった位置に現れやすい記号もあります。意味が分からなくても、こうした並び方は数えて比べられます。

2013年の研究では、文字の並びが、ふだん使う言葉で書かれた文章と似た構造を持つと報告されました。けれど、規則が見つかることと、何語で何と書いてあるかが分かることは別です。

暗号で言葉を隠したのか、知られていない書き方なのか。それとも、規則に沿って意味のない文字列を作ったのか。並び方だけでは、一つに決められません。

文字の意味だけでなく、ページの順番も研究中

2026年、Colin LayfieldとLisa Fagin Davisは、現在の綴とじ順やページの構造を調べる新しい分析を発表しました。これは本の組み立て方を探る研究で、文章を解読した研究ではありません。

ページ構造を調べた論文を見る(英語) ↗

手がかりは増えても、意味にはまだ届きません。では、何ができれば「読めた」と言えるのでしょう。

04|何ができれば読めた?

一か所だけでなく、
ほかのページも読めるか。

「読めた」を確かめるには

  1. 1
    読み方を考える

    記号を、どんな言葉として読むか

  2. 2
    別のページで試す

    同じルールで意味が通るか

  3. 3
    別の人も確かめる

    同じ方法で同じ答えになるか

似た文字列を作ることは、実物の文章を読めたこととは違います。

これまでも「解読した」という発表はありました。でも、一部の文字にだけ合う読み方では、ほかのページを読むたびにルールを変えなくてはいけないかもしれません。別の研究者が同じ方法を試して、同じ意味を読めるかが大切です。

2025年、Michael Greshkoは、15世紀の道具でも使える暗号を考え、手稿に似た文字の並びを作りました。暗号というのは、決めたルールで言葉を別の記号などに置き換え、意味を隠す方法です。

この研究は、意味のある言葉を隠しても、手稿のような並びができることを示しました。実際の手稿がその暗号で書かれたと分かったわけではなく、文章の解読にもなっていません。

年代を測ることも、似た文字列を作ることもできました。実物の本について、いま答えられるのはどこまででしょうか。

05|いま分かること

手がかりはある。
意味を確かめる読み方が、まだない。

分かったこと
手稿は実在し、材料は15世紀はじめのものです。文字の並びにも、調べられる規則があります。
まだ考えられていること
暗号や、知られていない書き方などが候補です。どの説明が正しいかは、決まっていません。
まだ分からないこと
だれが、何のために書いたのか。何語で、どう読むのか。文章の意味は確かめられていません。
冒頭と同じ、植物と容器と文字が並ぶ実物の見開き
もう一度、本物のページへ。植物の名前を表す文字なのか、それとも別の話が書かれているのか。

「読めない」は、「何も分からない」ではありません。本の材料や文字を調べることで、少しずつ手がかりが増えています。いま残るのは、それらを結び付けて、ほかの人も確かめられる読み方を見つけることです。

最初に見た植物と文字は、いまも同じ場所にあります。何が分かって、何がまだ分からないのかを知ると、この古いページの見え方も少し変わるかもしれません。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

所蔵館の解説と、言語・暗号・本の構造についての研究を参照しています。分析の結果と、解読の成功を区別して読める資料です。

画像クレジット

実物画像:Yale University Library, Beinecke Rare Book and Manuscript Library, MS 408(Public Domain)。見開きと、植物・文字を切り出した画像を使用しています。文字や絵の描き足しはありません。

年代測定・読み方の確認手順の図:本文の参考資料をもとに作成。手稿の意味や暗号方式を再現した図ではありません。