ONLINE ARCHIVE第 一 書 庫
デスバレーの乾いた湖底にある石と、その後ろに長く続く実際の移動跡
現地に残る石と軌跡。写真:USGS(Public Domain)
記録番号USA–PHN–002
不思議な場所・現象FILE 008

デスバレーの動く石Sailing Stones / Racetrack Playa

デスバレーの
「動く石」

石は、ふつう自分では動きません。それなのに、乾いた湖底には、石が通ったような長い線が残っています。だれも押していない石は、なぜ動いたのでしょうか。

▰ カテゴリ不思議な場所・現象◎ 地域米国・カリフォルニア州◆ キーワード動く石 / デスバレー / 自然現象▥ こわさこわさなし
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30秒でわかるお話

アメリカのデスバレーには、雨の少ない季節に乾く広い湖底があります。そこには、石が長い線を引いて進んだような跡が残っています。長いあいだ動く瞬間を記録できませんでしたが、2013年に研究者がその場面を捉えました。石を動かしたのは、何だったのでしょう。

SECTION 01|THE TRACKS

石の後ろに、
歩いたような跡がある。

場所はデスバレー国立公園の「レーシング・プラヤ」。雨がない時期には乾いた湖底のようになる、広く平らな場所です。

そこには石と、その後ろから何十m、時には数百mも続く線があります。まっすぐな線も、曲がる線も、途中で向きが変わる線もあります。しかし、石には足もエンジンもありません。

レーシング・プラヤの乾いた湖底に何本も残る石の移動跡
実物写真レーシング・プラヤに残る複数の石の軌跡。写真:USGS(Public Domain)。

SECTION 02|WHY A MYSTERY?

跡はあるのに、
動く瞬間が見つからない。

石は毎日動くわけではありません。何年も同じ場所にいることがあります。水がたまり、夜に凍り、朝に氷がゆるみ、風が吹く。いくつもの条件が冬の同じ日にそろわなければなりません。

しかも場所は遠く、動きは目で追えるほどゆっくりです。強い風、水、氷など、さまざまな説が考えられましたが、「その瞬間の石」と「その時の天気」を一緒に測ることが難しかったのです。

浅い水

冬の雨などで湖底に水がたまる

寒い夜

水面に薄い氷が張る

朝の日差し

氷が割れて浮かぶ

弱い風

大きな氷板を動かす

SECTION 03|THE WATCH

石に記録装置をつけ、
冬を待つ。

研究チームは、公園にもともとある石を傷つけないよう、似た石を持ち込んで位置を記録するGPS装置を付けました。さらに、気温や風を測る観測所と、時間を追って撮影するカメラを組み合わせました。石が動いた跡だけでなく、動いた時の条件まで同時に確かめる作戦です。

研究用の石の上部に設けた穴へGPS記録装置を入れた様子の再現
GPS付きの石

石の位置を記録する。

湖岸で風向きや気温を測る観測装置の再現
気象観測

気温や風の強さを記録する。

湖底に向けて設置された屋外用の観測カメラの再現
カメラ

湖底の変化を時間を追って撮影する。

3つの記録を合わせ、動く瞬間と天気を確かめる。
※AI生成によるイメージ。観測方法を示す再現で、当時の装置の外観をそのまま再現したものではありません。

そして2013年12月、浅い池に氷が張った日に石が動き、装置が記録しました。研究者は2014年1月にも動く石を目の前で観察しています。結果は同年8月、研究論文として発表されました。実際に動いた石の連続写真を見る(論文・外部サイト)↗

SECTION 04|HOW IT MOVES

石を押したのは、
薄い氷だった。

  1. 夜の浅い池に薄い氷が張り、石のまわりの水面が凍った状態の再現
    1夜に、水面が凍る

    浅い水の表面に、薄い氷が張る。

  2. 朝の日差しで薄い氷が割れ、水面に複数の氷板が浮く状態の再現
    2朝、氷が割れて浮く

    日差しで氷がゆるみ、大きな板に割れる。

  3. 浅い水のさざ波と、石に向かって動く広い氷板の再現風 →
    3風が、氷を動かす

    弱い風で、大きな氷板が石の方へ動く。

  4. 薄い氷板が石の側面を押し、湿った湖底に溝が残る様子の再現
    4氷が、石を押す

    石は湖底をすべり、後ろに跡を残す。

氷が石を横から押すまで 石は浮かず、湖底に接したまま動きます。※AI生成によるイメージ。氷の厚さ・水深・移動量は正確な縮尺ではありません。

観測された氷は、厚さおよそ3〜6mm。大きく割れた氷板が水に浮き、秒速4〜5mほどの風で横へ動きました。氷板は広いため、弱めの風でも力を受けられます。

大切なのは、氷が石を持ち上げたのではないことです。浮いた薄い氷が石の側面をゆっくり押し、湿った湖底を石がすべりました。

SECTION 05|WHAT WAS MEASURED?

ゆっくり。でも、
確かに動いていた。

60個超

2013年12月20日に
動くのを観察した石

2–5m/分

観測された
おおよその速さ

224m

GPS付きの一部の石が
複数回で動いた最大距離

人がゆっくり歩く速さよりもかなり遅い動きです。それでも複数の石が同じ氷板に押されると、少しずつ違う軌跡を残します。224mという数字はGPSを付けた石の複数回の移動の合計で、すべての石が一度にその距離を動いたわけではありません。

この観測で仕組みは大きく解けました。ただし、湖底に残る過去のすべての軌跡が、まったく同じ条件でできたと断言する必要はありません。科学は、観測できたことと、まだ確かめていないことを分けます。

CURRENT STATUS|いま、どこまで分かっている?

動く仕組みは、
かなり解明されている。

01
以前の大きな謎

石の跡はあるのに、動く瞬間を科学的な計測とともに捉えられませんでした。

↓
02
直接観測で解明

浅い水、数mmの薄い氷、弱い風がそろい、氷板が石を押す様子が確認されました。

↓
03
残る研究

場所や年による条件の違い、過去の多様な軌跡がどう作られたかは、観測を重ねて確かめます。

乾いた湖底にある石から、遠くまで曲がりながら続く移動跡の再現
石と、その後ろに続く長い跡。※AI生成によるイメージ。

謎が解けると、ふしぎは消えてしまうのでしょうか。

いいえ。だれも見たことのなかった瞬間を、どんな道具で、どれだけ待てば捕まえられるのか。その答えを見つけるまでが、科学の物語です。

REFERENCE DESK

参考資料・関連リンク

画像クレジット

Racetrack Playaの石と軌跡:U.S. Geological Survey, Geology and Ecology of National Parks(Public Domain)。第3章の観測装置・第4章の4つのステップ・結びの石と軌跡:観測論文と公園公式資料に基づくAI生成による再現。実際の観測写真ではありません。